東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1104号 判決
被控訴人は、破産会社と控訴人等の間の右各物件(以下本件商品という。)売買の行為は、破産会社が破産債権者を害することを知つてこれをなした行為であるから、これを否認すると主張するので、これを検討する。
(一)、昭和三一年二月二八日頃当時、破産会社の債務が約七三〇万円に上つていたこと、破産会社は、右二月二八日約束手形の不渡りを出し、その後も引続き多額の約束手形の不渡りを出したことは当事者間に争いなく、この事実を原審証人徳永兵作(第一回)、同浜井義雄、同古沢善作の各証言に綜合すると、破産会社は、右二月二八日に約束手形の不渡りを出した時を以て、支払停止をしたものと認めるのが相当である。従つて、本件商品の売却は、破産会社が支払停止をした後のことに属するわけである。又本件商品は、その当時における破産会社の店舗にあつた全商品であつて、破産会社の最も重要な財産であつたことは、当事者間に争いがない。
(二)、次に、本件商品の売買が行われるに至つた経緯について審究する。
(証拠)を綜合すると、
(1) 破産会社は、前に認定したような経過で、債務超過、支払不能に陥り、支払停止をし、破産宣告を受けるに至つたのであるが、破産会社の主宰者であつた前記徳永兵作は、昭和三一年二月末頃、破産会社が支払不能の状態に陥るや、控訴人等に援助を求め、協議の結果、徳永を救済するという立前から、控訴人三名が本件商品を一括して、いわゆる居抜きを以て、合計九〇万円で買受け、この代金を以て、破産会社の総債権者に一割三分程度の弁済をしてその余の免除を受けることによつてその債務を整理し、他方、控訴人等は、本件商品を現物出資して新会社(有限会社丸二商店)を設立し、同会社に、破産会社の店舗の賃借権を含む営業設備従業員等一切を無償で承継せしめ、前記現物出資の商品を商品として、破産会社の店舗で破産会社と同一の営業を営ましめることを計画し、かつ、これを実行したもので、その結果、控訴人三名は各取締役となつて右丸二商店を設立して同年三月六日その設立登記をしたのであるが、同商店は、破産会社と同じ営業を目的とし、同じ店舗で、同じ商品(すなわち本件売買にかかる商品)をならべて営業を開始し、徳永兵作夫婦はそのまま丸二商店の使用人という資格で同商店の業務に従事し、実際は、同商店の業務の一切を同人夫婦が処理し、なお、破産会社から丸二商店えの営業の切替に当つては、看板を取換えただけで、休業などは全然しなかつたものであること、すなわち、本件商品の売買は、以上のような、破産会社の整理及び破産会社から丸二商店えの営業の切替えに関する計画の一環として行われたものであること。
(2) そして、以上の計画は、すべて徳永兵作が、主として控訴人等のみの援助協力の下にしたものであつて、総債権者の事前の同意も指導も得たものではなく、本件商品の売買代金を以てする債務の整理の如きも、徳永等が一方的に立案した上債権者を招集して押付け的に交渉したもので、その結果、債権額にして五〇〇余万円の債権者等からは賛成を得たが、その他の債権者等は、あるいは総債権の内訳に疑問があるとし、あるいは破産会社の経理の不明確を攻撃するなどして納得せず、遂に、それらの者の賛成を得ることはできなかつたものであること、
以上の事実を認めることができる。原審(第一、二回)及び当審証人徳永兵作の証言ならびに原審における控訴人熊沢廉平本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し得ず、他に右認定を左右すべき証拠はない。
なお、破産会社は徳永兵作方の個人会社であり、徳永は、事実上同会社を支配経営していたものであることは前段認定の通りであるから、破産会社が支払不能となり、破産するに至つたことについては、徳永こそ、最先にその責任を果たすべき立場にあつたのに、破産会社の前記整理の立案実行に際しては、徳永は、例えば自己の財産を提供するとか、個人的に借財してその資金を提供するとかいうが如き、その責任を果すための行為をしたことについてはもちろん、その申出をしたことについても、その事実を認めるべき証拠は全く存在しない。
しかして、以上のように、一方において債権者側の意図は全くこれを無視し、これに多大の損失を与えて顧みず、他方債務者側では何らの犠牲をも払おうとしない徳永ら債務者側の意図は、これを以て不公正なものといわざるを得ない。
(三)、次に原審鑑定人岩田武夫作成の鑑定書及び同鑑定人尋問の結果を綜合すると、昭和三一年三月五日当時における本件商品の相当価額(本件商品を同業者間の取引により、短期間内に処分する場合の公正と認められる価額)は、控訴人鈴木買受けの分(原判決添付第一目録記載のもの)は合計三四三、一七五円、同飯塚買受けの分(同上第二目録記載のもの)は合計三六一、三七五円、同熊沢買受けの分(同上第三目録記載のもの)は合計三五六、〇四八円(以上は、いずれも、岩田鑑定人の鑑定書の小売価額の三割引で、なお、同鑑定書の計算には一部誤算があるので、これを訂正して算出した。)と認められる。原審証人佐藤菊一、同高橋蔵海の各証言中、右認定に反する部分は措信し得ない。
しかして、右認定事実に照らせば、控訴人らの本件商品買受け価額は、相当価額よりも、いずれも、約一割四分ないし二割低廉であつたわけである。
(四)、以上の次第で、本件商品の売買は、破産会社が、その支払停止後において、何ら総債権者の同意または指導をうけることなく、不公正な意図の下に行つた私的整理の一環として、同会社の重要な財産として、総債権者の共同担保としても重要な、同会社所有の商品全部を、廉価に処分したものであるから、これを対て破産法第七二条第一号に規定する破産債権者を害すべき行為に該るものと解するに十分である。その処分の目的物件が動産であること、ならびに、その売得金を以て債務弁済の資金に充てる目的であつたということは、右結論を左右するに足りない。また、原審及び当審証人徳永兵作の証言によれば、破産会社の前記私的整理の立案及び実行は、弁護士三谷穰の指導の下に行われたこと、なお、本件商品売買の代金九〇万円は、その内から、右三谷弁護士に対する報酬を支払つた外、右私的整理案による弁済を承諾した債権者に対して、同案に従う弁済を行い、その残余金(その整理案を最後まで承認しなかつた債権者に対する弁済を中止したことによる剰余金)一二七、五二〇円は、これを、破産宣告後、破産管財人たる被控訴人に引渡したことを認めることができるが(控訴人が破産会社から、破産宣告後一二七、五二〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。)、これらの事実もまた、いまだ以て前記の結論を左右するに足りない。
(内田 鈴木禎 入山)